パン資材事業部
研究開発グループ
グループマネジャー
藤本 章人

パンの風味や食感等の品質をより高いレベルに引き上げるサワー種発酵液「サワード®モイスト」の開発をリードした研究員のインタビューです。

「食を研究する」原点

食品関係の仕事に興味を持ったのは、母が管理栄養士として働いていたことや、祖母が家庭科の先生をしていたという影響もあるかと思います。そして大学に入学し、魚油の生理機能や人への影響などを研究しました。
母が新しくレシピを開発していたり、栄養計算をしていたりする様子を間近に見ていましたので、入社して同じようなことをされている方をよく見かけますが、食を研究するといった意味で馴染みがありました。

ヨーロッパ企業のパン種の技術を取り入れ、さらに新しい製品開発を

パンに入れる乳酸菌の発酵風味料は自社ブランドとして製品を出していましたが、パン作りにおいて本格的なイメージのあるヨーロッパ、そしてその中でもパンの種類が一番多い国・ドイツの製品を展開したいということで開発に向けて取り組みが始まりました。
ドイツのボッカー社は1908年頃に創業した家族経営のサワー種のメーカーで、ヨーロッパのパン業界の中では非常に知名度のある会社です。そのボッカー社との技術提携が実現し、最初に作ったのは、「サワード®ディレクト25」。この商品は基本的にはボッカー社のレシピそのままの製品でした。ヨーロッパの製品だから本格的だと喜んでくれる方もいましたが、自分自身の中で「技術的に何か新しいところはあるのか?」と疑問もありました。そこで「ドイツから日本に持ってくるだけでなく、私からボッカー社の方へ提案して、何か一緒に製品づくりをできないか」と、スタートしたのが「サワード®モイスト」です。先方の理解を得るのに約3年を費やし、ボッカー社の研究者とメールで頻繁にやりとりをしたり、時にはこちらに来ていただきながら作り上げました。
ボッカー社とは、製品だけのやりとりだけではなく、技術的なやりとりなども密にさせていただき、実績を積んでいく中で信頼関係を築いてきました。また、パン業界の将来とか、やりたいことの青写真などを彼らと共有し、新しい話をどんどん進めています。

進化し続けるチーム

「常に変わっていく。進化していく」ということはチームのメンバーに意識してもらっています。
というのも製品を作り上げるには数年単位の時間がかかります。その間にもお客様の環境も劇的に変わっていきます。開発した当時の考えのままで開発を続けていても、出来上がった時にはお客様にとって、すでに必要ない製品となってしまう可能性も非常に高い。ですから常々、市場の動向を見て、進化していかなくてはならない。そのためには、いろいろな方々と様々な角度から話をして、自分の考えや、アイデアについて問いを持つことはとても大事なことかと思いますので、周りのメンバーと共有しています。
また、何かひとつの物事に熱中して取り組んでほしいという思いもあります。失敗することもありますが、それは長い目で見た時に、ものすごく活きてきます。
考え込んでなかなか行動に移せないという場合には、まず7割くらい青写真を描いた後は行動していく。失敗したら、「次にどうしていこうか」というアプローチの仕方をしています。反対に、青写真を描けない状態で進めると、あまり良い方向に進まないので、製品を喜んでくれる相手のことを想い、青写真を描いてから、スタートできるように後押ししています。

研究者としての心

家に帰っても「こういうアイデアがいいのではないか」など仕事のことを考えていることがほとんどです。パンを食べている時も「このパンのこういうところが、こんな風においしい!」と感じつつも、家族からうっとうしく思われてしまうので、黙って食べるようにしています。
研究者はだれかがやったことをそのまま上乗せするというわけではなく、「ゼロからイチを作る」という仕事をしています。そのためには、できるだけいろいろな人とお話させていただくように努めています。
そして、将来の青写真を描くことを大切にし、心をこめて製品を作る。製品の出し方は、「お客様からのご要望にお応えして製品を作る」のと、こちらから「こういうのはいかがでしょうか」と提案するという2つのパターンがありますが、私たちが大事にしているのは、後者の提案です。そのためには、相手のことを思いながら、プレゼントを作るように一つひとつに心を込めることが非常に大事だと思います。
それから我慢すること。青写真を描いて、どんなに心を込め、丁寧に進めても、時代の流れや環境の変化などでうまくいかずに、我慢が必要になるシーンが度々出てきます。そこできちんと我慢し、あきらめずに耐えることを、研究活動を進める上で非常に大事にしています。
今のパン業界では、パンを作る人が減っているため、パン職人がいなくてもいかにきちんとパンが流通されるかという課題が重要視されてきています。そういった変化する環境に合わせて、お客様のお役に立てる製品を開発していきたいと思っています。

サポートメンバーからのメッセージ

研究開発本部
知的財産部
商標・特許グループ
南波 円香

熱意を持ってこだわりを捨てる
多数のお客様にとって価値ある製品を開発するということは、時間のかかる仕事です。私が携わった「サワード®モイスト」には約4年の開発期間を要しました。製品が世に出るまでの長い地道な研究の中で、開発者は他の誰よりも一生懸命になってテーマに取り組み、自分の持ち得るアイデアを全て注ぎ込んで製品の原型を作ります。
ただ、こうして出来上がる原型は、お客様にとって価値ある要素と不要な要素が混在したものです。原型を製品へより近づける時、他の研究員、製造部、営業員等の要望を取り込んで改良しますが、その改良の中で自分が良かれと思っていた技術要素を泣く泣く削ぎ落とす場合もあります。自分のこだわりを100%詰め込んだ原型が、どんどんと崩されて、こだわりの要素が減っていく……。これで良いのか不安になります。しかし、要望を言ってくれる周囲の人も、価値ある製品をお客様に届けたいという気持ちは同じ。その事に途中で気付いて、たくさんの意見を取り込みながら、「サワード®モイスト」は完成しました。
ひとりのアイデアで出来た原型に、みんなのアイデアが加わり、社内外のみんなに親しまれる製品になる。「サワード®モイスト」には今や他の当社技術も注ぎ込まれて、別の形で進化しています。
その時代のお客様のニーズに合わせて、みんなで価値ある製品に進化させていく。これからも、そんなモノづくり、価値づくりを目指していきたいと思っています。