研究開発本部
フードサイエンス研究所
主任研究員
原 圭志

風味のバランスを壊さずに味をまとめる、D-アミノ酸を含有する醸造調味料「味まとめ®DJ」の開発を担当した研究員のインタビューです。

根底にあったのは食への探究心

大学の学部の頃は林業を専攻していました。チェンソーをかついで木を切っている思い出しかないですね。大学院に進み、遺伝子を習うようになり、ようやく理系らしくなったのですが、それでも今の仕事とは全く畑が違う。
しかし、中学生や高校生の頃から食べることが好きでした。また、海外旅行をした際には、屋台や朝市など、地元の人が集まってくるようなところで、地元の人達と同じようなものを食べてみて、美味しいだとか、これは口に合わないだとか、よく試してしています。食に興味を持っていたので、自分で何か美味しいものを作りたいと思い、食品会社に入りました。

「味まとめ®DJ」の誕生

アミノ酸には同じ組成成分で構造だけが違うL-アミノ酸とD-アミノ酸があることはだいぶ前から知られていました。しかしこの違いが何であるかという研究は当時そんなに多くなかったと思います。D-アミノ酸はその生理機能から医薬品分野での研究が先に進められていました。
私たちは、もともと酒類を開発していたグループでした。ワインは熟成させることによって味がまろやかになりますが、その味を変化させていくキー成分のひとつがD-アミノ酸です。同じような現象でお味噌やしょうゆも熟成させるとまろやかで、とげとげとした味が抑えられ、まるくなっていく。また、コクを深めたり味をまとめるなど、様々な現象が出てきました。
「D-アミノ酸はおもしろい」「これを深めていこう」とみんなで知恵を出し合い、発酵によってD-アミノ酸を作ってみようというアイデアは必然的に生まれました。味がどんどん変わっていく、その現象を製品に落とし込もう。それを突き詰めていこうという発想が「味まとめ®DJ」の開発の始まりでした。
D-アミノ酸を発酵で出させるということは初めてのことでしたので、微生物の選定、培養や工業化の方法などに苦労しました。微生物の選定をひとつ間違えてしまうと、全然アミノ酸が得られなかったり、選定した微生物を上手に培養してあげないと、D-アミノ酸を出してくれなかったりします。また、この開発には約2年というスパンが決められていましたので、私ひとりではできないと思い、多くのメンバーに協力してもらって、それぞれの課題を解決したり、分業したりしながら進めました。そして、2015年春の発売以来、多方面のお客様から採用され、味のカドがまるくなったとご好評いただき、年々販売実績を伸ばし続けています。

製品を生むチームワーク

製品を作るためなら、わからないところは教えてもらい、自分にはできないことには、協力をお願いしています。逆に他の方のお手伝いをしたり、問い合わせが来ることもあります。そんな時は別の方法を提案したり、違った角度の視点で書かれた論文を渡したりしています。
開発は初期の段階ではひとりで黙々と進めているのですが、ひとりで進めているとスピード感もなくなってきてしまうなど、限界が出てきます。そこで周りの人をいかに巻き込んでいくかというところが大きな勝負になってくると思います。私の場合は、周りの方に恵まれたことが一番大きくて、培養にしても菌の選定にしても、お願いすると協力してくれるメンバーがいました。また、実験室でできたものを工場で実際に作ってみる「試験製造」では、数日間、1時間ごとに菌が培養しているか、生きているかなどを24時間態勢で見守る必要があるのですが、その時の上司もメンバーも快く参加してくれました。そういったサポートはとても助かりました。
また、調理試験担当の石塚さんが営業に同行し、お客様のご要望を聞いて、その内容を開発にフィードバックしてくださっています。ご要望に寄り沿った製品を作り、それをまた石塚さんに調理試験をしてコメントをもらい、開発をし直す。何度もやり取りしたのち、また石塚さんにお客様のところへ持っていってもらい、評価を受けてもらう。このようなサイクルを心地よく感じています。

アイデアをいつもポジティブマインドで

どこに情報が転がっているか、発想できるかわからないので、人とお話する中で、何かにつながりそうなおもしろいことがあれば、メモをとるようにしています。
また、就寝前に一日の出来事を振返り、人から聞いたおもしろいことや、旅先の情景、これとこれをくっつけるとどうなるだろうとか、考えるのが好きです。それが開発につながるかというとわからないのですが、「ひらめく」という訓練がいいのかもしれません。
また、研究をしていると失敗は必ずついてきますし、研究の意義や迷いが生じてくることもあります。しかし、そういった困難があったとしても、ポジティブに考えていくことが一番重要かなと思います。そうすると前向きに生きられると思います。

20年後を思い描いた製品づくり

今は基盤研究センターの方で、健康分野に注力する仕事に携わっています。「自分ごと」としてとらえ、自身が60歳、70歳になった時のことを想像し、身体に生じてくるであろう現象に備えた健康素材を作っていこうと考えています。年をとるにつれ、筋肉や腰が悪くなっているかもしれない、痴呆が始まっているかもしれない、このようなだれにでもおこりうる身体の現象に向けた新しい製品を数年間かけてつくり、60歳になった時に、自分自身が作った商品を食べて、健康になろうということを考えながら研究開発をしています。また、世界に発信できるような製品を開発できるように努力したいと思います。

サポートメンバーからのメッセージ

醸造調味料・酒類事業部
研究開発グループ
石塚 真紀子

一人ひとりがプロフェッショナル
「製品を出したい」という願いをみんなが抱いています。「そのために自分ができることは何だろう」「どうしたら、参加できるだろう」と日々考えています。
一人ひとりがそれぞれの領域でのプロフェッショナル。例えば「培養のプロフェッショナル」「作るプロフェッショナル」など。そういった専門性を備えたメンバーの気持ちがひとつになった時にパワーが発揮されて、短期間で一気に製品化を実現できるのです。ですから、自分の得意なところを伸ばすことが、チームワークの源のひとつになっています。

健康素材をおいしく提供していく
プライベートでは感度を磨くことが第一優先なので、食べ過ぎないなどの健康管理には気をつけています。また、色々な食体感をするようにしています。流行っている食べ物は購入して実際に食べてみる。ラーメン、ケーキ、冷凍食品など、どんな食品でも人気の商品を食べてみて、「今こんな味が売れているんだな」「こんな味もあるんだな」というのを身体で覚える。このように味覚の訓練をしています。ソムリエの資格も頑張って取得しました。
「食べることって、嬉しい!」「美味しいものを食べた時ってとっても嬉しい!」その喜びを弊社から皆さまへ提供したいと考えています。「おいしいものを食べようよ!」そういう気持ちでいっぱいです。